コラム

ロオジエにまつわるエピソードや食文化、料理に関するコラムを随時掲載しています。

NEW2015年11月20日
橋本麻里(Writer)

ここ数年、急速に普及したハロウィンのかぼちゃが片付けられると、街には気の早いクリスマスのイルミネーションが灯り始める。季節の風物詩のように眺めているその輝きに、実はかなり深い意味が秘められていることを、20世紀を代表する新約聖書・古代キリスト教史学者、オスカー・クルマンは著書『クリスマスの起源』...MORE

2015年3月3日
宇田川悟(作家)

パリに長く暮らした私は、パリはもとよりフランス各地のレストランでよく食べた。ミシュランの星つきから名もない店まで数知れない。中には強烈な印象とともに甦る店もあれば、追憶の底からじわりと迫り上がってくる店もある。それぞれに独自の料理を食べたという記憶が鮮やかに刻まれている。...MORE

2014年4月7日

大きな吹き抜けの下、まるで小さな庭、あるいは森のように、季節の移ろいを映しながら、生き生きと空間を潤す花。このデコレーションを手がけているのが、「花の建築家」の異名を取るベルギーのフラワーアーティスト、ダニエル・オストさんだ。資生堂とのつきあいは...MORE

2014年2月3日

「ロオジエ」のロゴのブラッシュアップにあたった仲條正義さんは、もと資生堂宣伝制作部出身のデザイナー。独立後も資生堂の企業哲学を尊重し、長く仕事を共にしてきた。だからこそ「文化の基層は何人かが変なことをしたって、簡単に変動するようなものじゃない」と、ある時は大胆な、また繊細なデザインの...MORE

2013年10月17日
橋本麻里(Writer)

今回の「ロオジエ」新生にあたっては、15世紀にフィレンツェの宮殿だった建物の改装から、近現代の様式をミックスしたスタイルまで、世界の名だたるホテルやレストランをそれぞれにふさわしい姿にしつらえ、高い評価を得てきたデザイナー、ピエール=イヴ・ロション氏を起用。ロオジエが...MORE

聖夜の輝きに寄せて橋本麻里(Writer)
ここ数年、急速に普及したハロウィンのかぼちゃが片付けられると、街には気の早いクリスマスのイルミネーションが灯り始める。季節の風物詩のように眺めているその輝きに、実はかなり深い意味が秘められていることを、20世紀を代表する新約聖書・古代キリスト教史学者、オスカー・クルマンは著書『クリスマスの起源』(教文館、2006年)で端的にまとめている。これをかいつまんでご紹介しよう。
 イエス・キリスト降誕の日付は、実のところまったくわかっていない。初代教会はイエスの降誕より、死と復活を遙かに重視していたが、やがて彼がこの世界へ来臨したこともまた、第一級の「救済」だと考えられるようになっていく。一方、キリスト教成立以前から存在する異教の多くが、冬至を過ぎ、夜より昼が長くなり始める時期を特別なものと見なして、さまざまな祭礼を行っていた。太陽の復活を祝う祝祭と、そもそも古代キリスト教の中にあった、「諸民族(異邦人)を照らす(啓示の)光」(『ルカ福音書』二章三二節)、「光あれ、すると光があった」(『ヘブル書』一章二節)などの表現にも明らかな、「キリストは世の光として闇の中へ入り、その救いのわざは創造とかかわる」という思想が結びついて、冬至前後の時期に降誕祭が定められ、またそこに復活/誕生する光のイメージが寄り添うようになる。
 やがて中世に入ると、聖夜には降誕祭の序幕として、教会の正面玄関の前でイエスの降誕や楽園追放を主題にした神秘劇が演じられるようになる。舞台装置に立てられたのは、楽園に善悪の知識の実を実らせていた林檎の木──冬には枯れているので代わりに常緑のモミの木があてられた──だ。こうしてモミの木は、堕落した人間の罪が、キリストの受肉(降誕)、それに続く十字架(これも実は樹のイメージを備えている)上の死によって贖われたことを象徴する存在とされ、その枝には人間を死へ導く林檎の実と、生命を与える聖餐式のパンとを飾るようになった。そして18世紀にいたって、キリスト降誕と冬至の祭りに重なる光のイメージが、クリスマスツリーの飾りへと流れ込み、ついにツリー上で蝋燭が輝く形式が完成されるのである。
 そして今年も、どのような神を信じるのであれ、その光が街をゆく人々の闇を払うことを願って、《ロオジエ》のエントランスを飾るツリーに光の灯される夜がやって来る。
フランス料理の快楽とエスプリ宇田川悟(作家)
パリに長く暮らした私は、パリはもとよりフランス各地のレストランでよく食べた。ミシュランの星つきから名もない店まで数知れない。中には強烈な印象とともに甦る店もあれば、追憶の底からじわりと迫り上がってくる店もある。それぞれに独自の料理を食べたという記憶が鮮やかに刻まれている。
 一般にグランド・メゾンの条件とはミシュランの3つ星、老舗、高水準の料理、風格のあるインテリア、完璧なサービス、MOF(フランス最優秀職人賞)受賞のシェフ、垂涎たるワインリストなどだろう。
歴史の蓄積に裏打ちされた高級レストランには独特な雰囲気が漂っている。日常を忘れさせてくれるようなハレの舞台へと誘ってくれる、華麗な工夫や演出がさまざまに施されているからだ。それは、エントランスに入った時から食事を終えるまで、甘美なひとときを特権的な時間だと感じさせてくれる魅力的な装置である。
 洗練された美しい料理がシンフォニーを奏で、そして美食ワールドが全開となる。さらに料理の良き同伴者としてワイン、豪華なカトラリー、素晴らしいインテリアが舞台に花を添える。客室の高い天井には客のお喋りが軽やかに反響し、シャンパンやワインを抜栓する音がささやき、皿やカトラリーが触れ合う微かな音がそれに交じり合い、メートル・ドテルをはじめスタッフのエレガントなサービスが躍る。それらが渾然一体となり、アンティームな空間にこだまする時、食欲はより増すだろう。すると、レストランは最高潮に盛り上がり、理想的な快楽の館へと変貌する。
 「ロオジエ」は、フランスのそうしたグランド・メゾンで堪能できる料理と時間と空間を甦らせてくれる。料理とサービスに感動し、オシャレな客に囲まれ、客室に流れる静かな賑わいに耳を傾けながら、フランス的快楽とエスプリを感じられる唯一の店である。気ぜわしい日常の煩わしさを忘れさせ、至福を味あわせてくれる、「ロオジエ」という食の文化的資産は東京の誇りである。

宇田川悟
1947年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業。作家。フランス政府農事功労賞シュヴァリエなどを受賞。著書は『VANストーリーズ』『欧州メディアの興亡』『料理人の突破力』『ホテルオークラ総料理長小野正吉』など多数。
建築と共生する花
大きな吹き抜けの下、まるで小さな庭、あるいは森のように、季節の移ろいを映しながら、生き生きと空間を潤す花。このデコレーションを手がけているのが、「花の建築家」の異名を取るベルギーのフラワーアーティスト、ダニエル・オストさんだ。

 資生堂とのつきあいは、2005年に東京銀座資生堂ビルのクリスマス装飾を手がけて以来。自分の思う通り、洗練された作品を作らせてもらうことができ、作家としての人生の中でも指折りの素晴らしい経験となりました。これまで特定の晩餐会で花を生けることはありましたが、ひとつのレストランで継続的に、たゆまず花を飾り続けるという初めての仕事を引き受けようと思ったのは、そうした信頼の積み重ねがあったからです。
 実際にロオジエの装花を制作する際に心がけているのは、内部の印象的な建築空間に応えて行きたいということ。現在のロオジエは、アールデコの意匠に「資生堂らしさ」を感じるのと共に、闇や影よりも光の要素を、また高い吹き抜けが作り出す大きな空間を意識させる構造になっています。自分の展覧会などでは、こうした空間に作品を「指し込む」ような感覚ですが、ロオジエでは建築と植物とが共生する環境を作り出すことを第一に考えています。特に昨年のオープニングの際に生けた、竹とシンビジウムの作品は、建築空間とのバランスもよく、東洋と西洋の感覚が融合した印象的な仕上がりで、忘れられません。
 とはいえ、お客さまにとってもっとも重要な経験は、皿の上に何が出て来るか、でしょう。ですからフロア中央のデコレーションには存在感を持たせつつも、テーブルにはベルギー出身のデザイナーで、まだ日本ではほとんど紹介されていないアンナ・トルフさんのガラス花器に少しだけ花を飾っています。まったく偶然ですが、店内の各所に施されたシャンパンの泡の意匠と、彼女の花器の、ガラスに閉じこめられた気泡とが誂えたようにぴったりで、感動しました。
 いま、世界中で少しずつ造花が使われるようになってきています。日本が今後どうなっていくのかわかりませんが、「いけばな」という形で世界のどこよりも長く花と人とが関係を結んできた国ですから、欧米よりむしろ希望があるかもしれません。だからこそロオジエにもいずれ、ソムリエのように毎日花の世話をする専任のスタッフが置かれるようになればいいと願っています。

ダニエル・オスト
1955年、ベルギー・セントニクラス生まれ。
79年に「ベルギーカップ」に優勝するなど、20代から数々の世界大会で賞を獲得。90年、大阪・花の万博で金賞。世界各地の伝統的な建築物を舞台に作品を発表、日本では仁和寺、東寺、金閣寺、出雲大社などで展覧会を開催している。
人の心を打つ、強い「エレガンス」
「ロオジエ」のロゴのブラッシュアップにあたった仲條正義さんは、もと資生堂宣伝制作部出身のデザイナー。独立後も資生堂の企業哲学を尊重し、長く仕事を共にしてきた。だからこそ「文化の基層は何人かが変なことをしたって、簡単に変動するようなものじゃない」と、ある時は大胆な、また繊細なデザインの提案ができる、無二の存在なのだ。

 旧ロオジエ開店の1973年~97年まで使われたアール・ヌーヴォースタイルのロゴは宣伝制作部にいた中村誠さんが、その後、店舗をアール・デコスタイルに改装した99年~2011年までのロゴは、やはり宣伝制作部の三宅章夫さんが手がけられました。
 僕はこれまで、ザ・ギンザやタクティクスデザインのアートディレクション、資生堂パーラーのロゴタイプ、パッケージデザインなどを担当してきましたが、「ロオジエ」とはご縁がありませんでした。ただ73年のロゴから微妙にバランスが悪いのではないかと感じていたのと、新しい店はもうアール・デコでもないだろう、という気持ちから、2013年のリニューアルオープンを前に、勝手に新しいロゴを設計していたのです。それを意気込んでスタッフに見せたら、「ロゴは基本的にそのまま、部分的に修正する予定なのでダメです」と(笑)。他の方がお作りになったロゴをいじるのは申し訳ない気もしますが、三宅さんが「手直しするなら仲條に」と言い残してお辞めになったこともあって、僕が担当することになりました。
 不思議なことですが、ロゴでも作った当時のまま置いておくと、古びてしまう。デザインの本質は「移ろい」で、変化してこそ1人前です。だから新しいロオジエのロゴは、文字を全体に少し太くし、字間も詰めてモダンな雰囲気にしました。欧文のタイポグラフィには、さまざまな約束があります。たとえば「O」や「Q」のようにカーブの多い文字は、同じサイズだと小さめに見えてしまうので心持ち拡大するとか、横棒は細め、縦棒は太めにするといったもの。とはいえ僕らは所詮日本人ですから、その法則全てに従う必要はなく、かえって日本人らしさが見えるようなロゴでいい。ロオジエのロゴは横棒を若干細めにしましたが、「O」は小さく見える──というか、それが僕の好みなので、拡大はしませんでした。
 ウェブやスマートフォンなど、メディアが多様化しているからこそ、むしろしっかりしたロゴが必要な時代に、小手先で上品に見せようと、華奢な書体に箔押しや黒一色のようなデザインをしたがる例をよく見ます。ですがそれでは人の心を打ちません。「エレガンス」はそんな弱々しいものではない。『花椿』の時から変わらないその方針は、今回のロゴのリニューアルでも通したつもりです。

仲條正義
1933年、東京生まれ。56年、東京芸術大学美術学部図案科を卒業、資生堂に入社し、宣伝部配属となる。59年に同社を退社し、デスカに入社。1960年フリーランスとなり、翌年仲條デザイン事務所を設立する。ADC賞、毎日デザイン賞、亀倉雄策賞など受賞多数。98年紫綬褒章を受章。
ピエール=イヴ・ロション氏が語るロオジエ橋本麻里(Writer)
今回の「ロオジエ」新生にあたっては、15世紀にフィレンツェの宮殿だった建物の改
装から、近現代の様式をミックスしたスタイルまで、世界の名だたるホテルやレスト
ランをそれぞれにふさわしい姿にしつらえ、高い評価を得てきたデザイナー、ピエー
ル=イヴ・ロション氏を起用。ロオジエがこれから刻んでいく新しい歴史のために、どのような器を作ったのかを伺った。


ピエール=イヴ・ロション
1949年、フランス・ブルターニュ生まれ。1979年、インテリアデザイン事務所「ピエール=イヴ・ロション」を設立。現在はパリとシカゴに事務所を構え、ジョルジュ・サンク(パリ)、ザ サヴォイ(ロンドン)、フォーシーズンズ ホテル&リゾート(フィレンツェ)などの五つ星ホテルやレストラン、個人邸宅など、多岐にわたるプロジェクトを手がける。


 大きな建物の中に作るレストランのプロジェクトでは、どうしても建築物の持つボリュームに制約される側面があります。今回「ロオジエ」をデザインするにあたっては、高級レストランとしては例外的な、地下に位置するフロアをどう扱うかが最大の問題でした。ですが結果として、これは「弱点」ではなくなったと思います。ほぼ正方形の建物の中央に円形のフロアがあるのですが、この円形部分を吹き抜けにすることで、空間のボリュームが倍に広がり、地下室にいるようにはまったく感じられないフロアになりました。正面のエントランスから一歩中へ足を踏み入れるとまったく違う世界へ引き込まれ、円形の吹き抜けをめぐる階段を降りるにつれて空間がどんどん広がり、最後にはその空間全てがお客さまのものになる──そういう体験をしていただけるのです。
 こうした場においてもっとも重要なのは、クオリティーの表現です。お客さまに居心地よく、リラックスして過ごしていただくために、無数の細かいエレメントを調整していくわけですが、私が資生堂に対して抱いているイメージはモダン、それでいてどこかクラシック。ですから内装に関しては、その両方の要素が融合されるように考えました。色でいえば暖かみのある白、ブロンズ、ゴールドという、女性を本当に美しく見せるアンサンブルです。そして、さらにライティング、美術、テーブルセッティング、サービス導線、が一体となったオーケストラを指揮するのが、私の役割でした。いらしていただいたお客さまが、「本当に素敵な夜を過ごせた」と、さらにもう一度ロオジエを訪れたいと感じていただけたなら、私の仕事は成功したといえるでしょう。今日、店内の最終的な仕上がりを目にし、また新生ロオジエを率いるフランス人のシェフ、そしてディレクトゥール・ド・サルから気持ちよく仕事ができそうな空間だという言葉を聞いて、必ずそうなるだろうと確信しました。