美味。正味(澄みきった風味)。明確さ。ミニマリスト。的確さ(ジャスト)。各地の風味豊かな季節の食材。すばらしいフランス式の(グランド)サービス。銀座という街の中の、まるで隠されたプライべートレストランのような居心地の良さ。コンテンポラリーとアール・ヌーヴォーの美しい美術コレクション。レストラン「ロオジエ」は、東京におけるフランス料理のアイコンのようなレストランでした。フランスにも、こんなに完璧なレストランはそうそうありません。さまざまなパルファン(香り)とあらゆるテクスチュール(食感)と風味の、均整のとれたバランスの良さ。言うまでもなくすばらしいシャンパンとワインのセレクションと、最後の美味しいお茶。感じの良いシェフが日本語とフランス語を交えてお客様とにこやかに談笑する姿。そのとき、私の友人、ジャック・ボリーがとても日本人に愛されているのが分かりました。これが、2004年、私の友人であり「メゾン・カイザー」の日本のパートナーでもある木村周一郎氏と訪れた「ロオジエ」での印象です。とても幸運な、忘れ難い、特別のディナーでした。
日本では、パートナーを得るより先に、良き友人を得なくてはものごとが上手く進まないことを私は知っています。私にとっての木村氏がそうであるように、ジャック・ボリー氏にとっては資生堂の人々との関係がそうなのでしょうね。パンひとつにも、日本のお客様には格別の気を配ります。実を言えば、私たちが日本でつくるパンはとても小さめです(対するアメリカは、大きめなのですが)。バゲットはフランスと同じく小麦粉220gですが、他はミニアチュリゼ(極小化)といえるくらい、異なる風味の小さなパンが好まれます。パンの包装にも細心の注意を払います。ときに、ちょっと過剰ではないかなと私は思うくらい。パンの風味とエコロジーの点からも、フランス式の無駄のない包装に変えていこうと日本のスタッフと考えているところです。フランスの良いところも、少しずつ日本の暮らしに浸透していくのではないでしょうか。そんな日本にあって、「ロオジエ」は、本物のフランスのヒストリーを語るレストラン。そこに、注意深く、綿密で、繊細な日本特有のタッチを加えて。その絶妙なさじ加減が、驚くほど見事でしたね。